セレソンを復活させた最強のトリオ
© photograph by Pedro Vilela/Getty Images/AFP 左から、コウチーニョ、ネイマール、ジェズス。3人揃ってのこのゴールパフォーマンスは、ジェズスお得意の「彼女へ電話する」仕草である。
6月13日発売の『フランス・フットボール』誌は、ブラジル代表にページを割いている。チッチ監督のもと復活を遂げ、ロシア・ワールドカップ予選突破第1号となったブラジル代表を、これから継続的に取り上げていくという。
チッチの代表変革がいかにして行われたかのレポートとあわせて、新生ブラジルの攻撃をけん引する3人――フィリペ・コウチーニョ、ガブリエウ・ジェズス、ネイマールのどこが優れているのかを、パトリック・ウルビニ記者が分析している。
この人気の記者、通称“PU”と呼ばれているのだが、父親であるマックス・ウルビニは、ガブリエル・アノやジャック・フェランらと並び、フランスのスポーツジャーナリズム史上最も偉大な記者のひとりと言われていた御仁である。父親は『レキップ』紙と『フランス・フットボール』誌で長く健筆を揮ってきた。その息子パトリックもまた、『レキップ』紙の時代から戦術分析や歴史の掘り起こしなどで編集部や読者から高い評価を得て今日に至っている。筆者(田村)とは、エメ・ジャケ監督のもとフランス代表が初来日を果たした1994年以来の知り合いである。
PUはブラジルの攻撃トリオをどう見ているのか。
ワールドカップに向けて、皆さんがブラジルを見ていくうえでの参考にして欲しい。
監修:田村修一
セレソンで、ついに理想的な攻撃トリオが完成した!
フィリペ・コウチーニョとガブリエウ・ジェズス、ネイマール。
この3人がうまく噛み合って、ブラジルは4-3-3システムに理想的な攻撃トリオを見いだしたのだった。
たしかに今日のブラジルのフォワードラインを構成する3人を、2002年日韓ワールドカップで世界一に輝いたロナウジーニョ=ロナウド=リバウドのトリオと比べるのは難しいかもしれない。
彼らはまだともに過ごした時間も短く、成熟してもいない。阿吽の呼吸も完璧とはいえない。さらにはプレーの加速や力強さ、テクニックでも、2002年の3人にはまだまだ及ばないのだから。
ドイツに1対7で大敗した時と比べると……。
ただそれでも彼らは、3年前にベロオリゾンテの準決勝でドイツに1-7と大敗したセレソンの攻撃トリオ、ベルナルド=フレッジ=フッキに比べると、月とスッポンほどの差があるのは間違いない。
フェリペ・コウチーニョとガブリエウ・ジェズス、ネイマールがともにプレーした2016年末の5試合をふり返るだけでそれは一目瞭然。彼ら3人がいかに質の高い連係を見せ、大きな違いを作り出すことができたかを(ガブリエウ・ジェズスは足の骨折により春におこなわれたワールドカップ予選のウルグアイ戦〈4-1でブラジルの勝利〉とパラグアイ戦〈同3-0〉を欠場しているが)。
ネイマールのプレースタイルが、周囲を活性化させる!
遅攻の場合には、彼らの動きが常にパスのコースを生み出し、お互いが相手のためにスペースを作りだす。そして速攻になると、リズムの変化を意図的にコントロールして、他の誰にも成し得ないメリハリのきいたシャープな攻撃を繰り広げる。またときにプレースキックも効果的である(ネイマールのフリーキックとコーナーキック。勿論コウチーニョのコーナーキックも有効だ)。
25歳のネイマールはすでに確固たる地位を確立し、経験も実績(代表77試合で52ゴール)も申し分ない。その点で彼は他の2人の追随を許さない。
だが、それ以上に彼のプレースタイルそのものが、彼自身をより魅力的にしているといえる。
バルサの若きアタッカーはドリブラーであり、またパサーでもゴールゲッターでもあるのだ。
そのスタイルは衝撃とチャレンジ、挑発から成り立っている。
彼はしばしば左サイドから仕掛けはじめて中へと切り込みフィニッシュにいたる。動きに無駄はなく、完璧なまでの身体とボールのコントロールは、相手のカウンターアタックを回避しチームにポゼッションの優位をもたらす。
グアルディオラ監督も絶賛するジェズスの強さ。
コウチーニョとネイマール、このふたりの技術的な連係が掛け値なしに一級品として完成されているからこそ、さらに、リオ五輪でネイマールは若いガブリエウ・ジェズスとも確固たる関係を築き、新たな地平を切り開けた。
この弱冠20歳の若きセンターフォワードを、彼が所属するマンチェスター・シティのジョゼップ・グアルディオラ監督はこう評する。
「パルメイラスではジェズスは左サイドでプレーしていた。そこが最も好きなポジションでもあった。だがペナルティエリアの中でこそ彼の本能とダイナミックさ、動きの質の高さとアグレッシブさが輝きを放つ。フィジカル能力が高く屈強な彼は、疲れを知ることなくスプリントを繰り返せる。そのうえ戦いと競り合いを好むコンペティターでもある。同時にチームにも献身的で、動き回って強度の高いプレスをかけ続ける」
いずれにせよスピードと縦の深さ、フィニッシュの正確さを増すために、あるいは逆にディフェンスラインの隙を突き、またゴールを背にしてボールをキープするために、ジェズスはすでに相手との競争から逃れる術を身につけているのだった。
クロップ監督も絶賛するコウチーニョの万能性。
いったんワイドに展開しながら中へとコンビネーションを構築するのを好む所属チーム(リバプール)で頭角を現したコウチーニョは、ガブリエウ・ジェズスとネイマールにとって最も確かなウィングであるといえた。
今季のリバプールでは、ユルゲン・クロップ監督は彼を左サイドか中央で起用した。つなぎ役、あるいは純粋なクリエイターとしての位置づけである。
クロップはこう述べている。
「彼のチームプレーへの影響は大きい。少し低い位置でプレーするときは、前にスペースがありマークもさほどきつくはない。つまりより遠くからプレーを始められる。ゴール前の危険地帯にスムーズに侵入し、フィニッシュが容易になるわけだ」
攻撃陣もさることながら、実は守備陣も最強である。
コウチーニョは、相手のバランスを崩してプレーに継続性をもたらし、正確にワンタッチでボールをさばきながらゴール前に突然現れる。あるいは様々なフェイントを駆使し、身体のすべてを最大限に生かしながらプレーする。さらに言うと、右サイドに適応する能力も兼ね備える。
彼のポジションをどうするかが、チッチにとって唯一の悩みの種であるのかもしれない。
これだけ才能のある選手が揃っているとなると、チッチはブラジルがボールを保持した際に選手たちに白紙委任状を与えてしまう方が良いかどうか、悩ましいところだろう。
そこで逆に浮き彫りになるのが、ミッドフィールドを含めた中央ディフェンスの強固さと、ダニエウ・アウベスとマルセロという比類なき両サイドバックの質の高さである。
マルキーニョスとミランダの両センターバックとパウリーニョ=カゼミーロ=レナト・アウグストのミッドフィールドは、まったく揺るぎのない信頼感をチームに与えているのだ。チッチがより安心できる条件は、ここでも整っていると言える。
とはいえワールドカップまでの1年は長い。
何がこれから起こるかは誰にも予測できない。
ここまで築いた278分の至福の時間を検証すると……。
コウチーニョとガブリエウ・ジェズス、ネイマールの3人は、2016年9月1日から11月15日までのロシア・ワールドカップ予選5試合でともにプレーしている。
内訳はエクアドル戦(9月1日=アウェイ、3-0)で29分、コロンビア戦(9月6日=ホーム、2-1)で20分、ボリビア戦(10月6日=ホーム、5-0)で66分、アルゼンチン戦(11月10日=ホーム、3-0)で81分、ペルー戦(11月15日=アウェイ、2-0)で82分で、あわせて278分である。
3人の併用を最初に考えたのはチッチで、前任者ドゥンガの最後の試合となったコパ・アメリカのペルー戦では、ウィリアン=ガブリエウ・バルボサ=コウチーニョのトリオが起用されていた。
チッチの選んだ3人がいかに効率的かはすぐに証明された。
彼らがともにプレーする間に、ブラジルは13得点を挙げてしまったのだ。
平均すると21分で1点の計算になる。また3人それぞれに得点はネイマールが4点、カブリエウ・ジェズスが3点、コウチーニョが2点。アシストはネイマールが4、ガブリエウ・ジェズスが3、コウチーニョが1である。
ブラジル代表はプランBでさえ圧倒的に強い。
ただ、それよりも特筆すべきは、3人が織りなす補完性とテクニカルな相互作用が、ブラジル代表に大きな希望を与えていることである。
具体的にはどういうことか。
ネイマールはガブリエウ・ジェズスに2アシストし、コウチーニョにもひとつ得点のお膳立てをしている。またガブリエウ・ジェズスはネイマールにアシストを2つ、コウチーニョはひとつ記録している。このように、お互いが相手のために献身する関係は、今始まったばかりである。
もっと言うと、今日のブラジルには、それぞれのポストにふたりの適任者がいる(右はウィリアン、中央はフィルミーノ、左はダグラス・コスタ)。
すなわちチッチはプランBで戦うことさえ十分可能で、多くの代表監督にとってこれほど羨ましいことはない――という環境にあるわけだ。
