EV開発競争、米付箋メーカーも参戦
電気自動車(EV)と自動運転車へのシフトに乗じようとしているのは自動車メーカーや配車アプリの運営会社だけではない。デトロイトとシリコンバレーの外の伝統的メーカーも一枚加わろうとしている。
付箋の「ポスト・イット」など多種多様な製品を手掛ける米複合企業スリーエム(3M)と米塗料・化学品大手PPGインダストリーズは、未来の車両に自社の接着剤や塗料、他の関連部品を採用させようとしているメーカー群の一角だ。これらメーカーは将来の運転支援システムへの利用が見込まれるタッチパネル、衝突回避センサー、大型電池への部品供給を競っている。
米化学大手ダウデュポンの輸送・先端高分子部門社長、ランディー・ストーン氏は「これは長期投資だ」とした上で「向こう3年間は大きな見返りはないだろう」と話した。
調査会社IHSマークイットは操縦システム、衝突回避・自動化システム、EV・ハイブリッド車(HV)・燃料電池式車両用部品の市場規模が2022年には3倍近くの1830億ドル(約21兆円)に達すると予測している。
これら工業製品メーカーの戦略にはリスクもある。自動車の進化には予想以上の時間がかかり、予想が実現しない可能性もある。主流はいまだに内燃エンジン車だ。公道での自動運転車の走行を認めている自治体は少ない。ウーバー・テクノロジーズやリストのカーシェアリングサービスや大量輸送機関を選んで自家用車を手放す人が増え、自動車所有率が下がる可能性もある。
それでもIHSの自動車アナリスト、マーク・ボヤディス氏は、自動車が根本的に変わる機運が高まっていると指摘する。「この種の業界では前例のない、10-15年の移行期に入った」との見方を示した。
ミネソタ州に本拠を置く3Mでは、自動車の電子化に製品ラインをいかに対応させるかが経営陣や研究開発部門の中心課題だ。目標はEV、HV、自動運転車の内装タッチスクリーン用フィルム、外部センサー塗料、電池冷却液などを3M製品で埋め尽くすことだ。
3Mの売上高に占める車両電子化関連製品の割合はわずかだ。昨年は推計で最大2億ドルと、総売上高(310億ドル)の1%に満たなかった。
この点について、3Mのインゲ・チューリン最高経営責任者(CEO)はインタビューで「5年後には数十億ドル規模になる。その後も拡大するだろう」と予想。「間違いない」と語った。
3Mの交通安全部門は、車線逸脱警報など次世代車のナビゲーションセンサーとの連携に向けて、新種の路面標識を開発中だ。3Mの研究者は、運転者の状況を監視するセンサーを隠すフィルムや、バックミラーに組み込んで背面カメラを表示するスクリーンなども開発している。
一方、ピッツバーグに本社を置くPPGインダストリーズは、自動運転車を誘導する電子センサーが感知しやすい車両用塗料の開発を進めている。
PPGの技術責任者、デビッド・ベム氏は、今後についてやや過剰な期待もあるとしたものの、ゆくゆくは車両電子化へのシフトが来るとの見方を示した。ベム氏はインタビューで「その波の到来が見込まれる」とし「議論が高まったときが変革のときだ」と語った。
ダウデュポンは3Mと同様に車両の接着剤など素材の軽量化を図っている。車両が軽量化できれば、充電頻度が下がる。ダウデュポンは電池の放熱で車内が高温になっても耐えられるナイロンなどといった製品の需要が増大するとみている。
4社目の老舗メーカーは米コーニングだ。光ファイバー・液晶用ガラス基板大手の同社は、傷がつきにくい特殊ガラス「ゴリラガラス」を少なくとも25の自動車モデルに供給する契約を締結済みだ。コーニングのジェフ・エべンソン最高戦略責任者(CSO)が明らかにした。
ゴリラガラスは既に独BMWのHV「i8」と米フォード・モーターの「GT」の2つのスポーツカーに利用されている。エべンソン氏によると、2016年の家電製品向けゴリラガラスの売上高は約10億ドル。将来的には車両向けの売上高がそれ以上になると、コーニングは予想している。エベンソン氏は「当社にとって非常に大きなビジネスになり得ると考えている」と話した。