昭和の面影 名物ビル創業地に別れ
© 毎日新聞 JR小倉駅近くの繁華街で売却されたかつての丸源ビル=北九州市小倉北区魚町で2017年12月15日午後1時16分、宮城裕也撮影
東京・銀座や福岡・中洲の繁華街などに進出した「丸源」(東京都)のビルが、創業地の北九州市から姿を消すことになりそうだ。近年、再開発が進む同市中心部のJR小倉駅の一帯で、老朽化が目立った丸源ビルの所有者が代わり、順次建て替えられていくためだ。新しい街並みが整備されていく中、同市の「昭和」の面影である名物ビルが消え、時代の変化を印象づけそうだ。【比嘉洋、宮城裕也、井上卓也】
17棟の土地売却、解体へ
丸源ビルは戦後の「不動産王」とされた川本源司郎氏が展開。「源」の字を丸囲みした壁面の独特のマークがビルの目印で、北九州市内には17棟があり、大半は1960~80年代に建設された。天井を低くして階数を増やすことでテナント料を抑え、昭和の好況期には入居するスナックや飲食店でにぎわった。
しかし平成に入って2000年代以降は北九州のビルは空室が目立つようになり、14年には防火戸などを巡って防火管理の法令違反が相次いで発覚して問題になり、川本氏は当時、北九州から撤退する考えを示していた。
登記などによると昨年3月~今年8月、北九州の17棟の土地は全て地元の複数の不動産業者に売却され、ビルの解体工事などが進んでいる。
丸源ビルが売り出された時期はちょうど、小倉駅周辺で不動産投資が活性化した時期と重なった。人口減などで下落傾向が続いていた市内の公示地価は、17年に商業地は24年ぶりに上昇。九州最大都市・福岡市の投資が過熱し、割安感のある北九州への注目が高まっているとの見方があり、行政もその機運を後押ししている。市は今年3月、小倉駅近くに1万5000人収容のミクニワールドスタジアム北九州(ミクスタ)を開業した。
さらに市は来年夏に都市計画で「再開発方針」を17年ぶりに改定し、駅周辺に住居やオフィスを誘導する青写真を描く。指定区域でのビル建設は補助が受けられるようにする。
指定区域には、丸源ビルが集中してあった小倉駅前の繁華街がすっぽりと含まれる予定だ。丸源から、ビル17棟のうちの8棟の土地・建物と、ミクスタの隣接地を一括購入した地元不動産会社「ヒット」の幹部は「小倉の中心地に人が戻り、投資環境が良くなってきている。開発、再生、売却などを考えていきたい」と語っている。
江本庸時(やすとき)不動産鑑定士は「北九州の地価は当分は上向きと予想され、街並みは目に見えて変わっていくのではないか」とみている。