日産・スバルの検査問題で日本車への信頼は失墜したか

日産・スバルの検査問題で日本車への信頼は失墜したか: 日産に続き、スバルも無資格検査問題で社長が会見した Photo:REUTERS/AFLO © diamond 日産に続き、スバルも無資格検査問題で社長が会見した Photo:REUTERS/AFLO

日産、スバルと相次いだ無資格者による完成検査問題

 日産自動車の10月の国内新車販売が半減したことを新聞各紙が報道した。各紙の論調は「日産、無資格検査で打撃。ブランドイメージが悪化し客離れにつながっている可能性がある」「企業イメージの向上を背負う車が出ばなをくじかれ、ブランドの立て直しは容易でない」と厳しいものである。

 9月29日に日産が国内工場の完成検査で無資格者が検査していたことを公表し、月をまたいだ10月2日に西川廣人日産社長が謝罪会見を行ったのが端緒だ。皮肉にも西川社長が会見した日は、日産がEVリーダーへの牽引役となる新型EVリーフの発売日だった。

 さらに、ダメ押しもあった。

 この謝罪会見の後も国内6工場で無資格完成検査が続いていたことが分かり、再度19日に西川社長が謝罪会見するハメに。当面の間、日産車の出荷停止を招く失態となった。

 加えて、自動車各社が自社工場の実態を調べる中で、スバルが同じ無資格完成検査をしていたことが判明した。日産に続いてスバルの吉永泰之社長が27日に謝罪会見を行ったのである。

 折しも、吉永スバル社長が緊急会見したのは第45回東京モーターショー開会式の日でもあった。「世界を、ここから動かそう」をテーマに日本自動車産業の先進技術力を世界に発信しようとする東京モーターショーには海外からのプレスも集まっていた。

 当然ながら「日本車のものづくりは、大丈夫か?品質とコストで定評のあった日本車の製造工場に何があったのだ?」との声が相次いで上がった。

 一方、国内でもユーザーから「日産やスバルのクルマは信頼できるの?安全なのか?」と受け止められ、“問題の本質”が良くわからない、判断できないという声が多く上がったのも事実である。

 日本の自動車製造工場での最終ラインの完成検査の実態と、コンプライアンス(法令遵守)にコーポレートガバナンス(企業統治)が効いていたのか、リスクマネジメント(危機管理経営)対応ができていたのか、「日本車の信頼失墜にもつながる問題」として一石が投じられたのである。

今回の無資格検査問題は必ずしも品質に致命的なものではないが…

 筆者は東京モーターショー開会式のあった10月27日に、ニューヨークタイムズからこの件について取材を申し込まれた。その日の夕刻の吉永スバル社長による緊急会見も受けて、27日(米国現地)付けの同紙の記事となった。

「これまで正確な技術と厳格な品質基準で知られてきた日本の自動車産業だが、日産の不祥事から続くこれら一連の事件は…」という文面からなるこの記事は、タカタ問題から三菱自動車の燃費不正、さらに神戸製鋼所の不正データ問題とも重ねて、日本自動車産業のモノづくりに警鐘を鳴らすものであった。

 確かに日本車のモノづくりは、品質・コストと技術力で世界的に高い評価を受けてきた。それがサプライヤーも含めて日本車関連の不祥事が続く状況では、世界から信頼性を問う見方が出てくるのは当然である。

 しかし、この無資格者による完成検査問題の実態を見ると、リコール隠しのように、必ずしも安全性や品質に関わることで即、信頼を失う類のような致命的な問題ではない。

 まず、ことの「本質」をしっかり掌握する必要がある。今回の日産とスバルの国内工場における無資格検査問題を総ざらいしてみよう。

 自動車工場の製造最終ラインの完成検査は、道路運送車両法に基づく安全性確保のための保安基準に適合しているか、国土交通省の通達(法令でなく)によって、自動車各社が社内で認定した完成検査員が責任を持って行うということになっていた。

 つまり、完成車出荷に際し国内向けは「自動車型式指定規制」の実施要領に基づく完成検査を、自動車各社が認定した完成検査員が行うことというルールだ。それを完成検査員以外の工場従業員が完成検査をし、その事実が日産とスバルで判明したというワケだ。

コンプライアンスの点で問題ブランド力低下は否めない

 日産のケースで見ると、先述したように、西川社長の謝罪会見で「現場のコントロールが課題」としながら、その後も複数の工場で不正が続いたことが発覚。国内6工場の国内向け車両の出荷と生産を停止という事態に追い込まれた。この出荷停止が10月の日産新車販売が昨年の同月比半減にも繋がったのだ。

 11月1日に国土交通省は、日産の主力工場である日産自動車九州の苅田工場に立ち入り検査を行い、再発防止策を点検。他の日産工場も3日までに対策を講じ、検査通過を経て出荷の再開を急ぐことになる。

 一方、日産のケースが明るみに出て自動車各社が自社工場の完成検査実態を調査し、国交省は10月30日に国内で型式指定を取得している自動車メーカー(輸入車含む)24社について、完成検査の不適切な取り扱いの有無についての調査結果を公表。スバルを除く残りの23社は「不適切な取り扱いはない」と報告した。

 スバルのケースは、日産とは少し背景が異なるものとも言えよう。27日の夕刻に緊急会見を行った吉永泰之社長は、沈痛な表情を浮かべながらコンプライアンス違反を陳謝しつつ「状況をよく理解してもらいたい」と誠実な質疑に終始した。

「事実をきちんと説明したい」と言う吉永社長によると、スバルの場合は工場の完成検査員登用制度が長らく厳しい社内認定を続けたことで、認定前ながら、最終的に資格の取れる知識や技能が認められた従業員も完成検査ラインに入っていたとのことだ。

「生産現場の運用面で悪意なくやり続けてきたこととはいえ、ルール違反であり、会社の成長に全体の力が付いていなかった。足元を見つめ直して実力を高めるしかない」とし、25万台強のリコール届出も明らかにした。

 とはいえ、日産とスバルは、いずれにしても「ルール違反」であることは間違いない。

 コーポレート・ガバナンスの「基本原理」であるコンプライアンスを守れなかったことは明らかな事実で、ブランド力の低下は否めない。

 経営サイドと生産現場とのコミュニケーションに問題があったのか、グローバル経営を重視する中で、縮小する日本国内市場を軽視し、国内向け出荷の現場にしわ寄せが来ていたのか、こうした問題についてもきちんと追求すべきであろう。

国交省による完成検査の制度設計のあり方も問われる

 その一方で、自動車製造工場における完成検査の制度設計のあり方も問われよう。

 筆者は、長年各社の工場を視察してきた経験があるが、現在の日本国内の工場において、最終完成検査でひっかかる車両はまずないのではないだろうか。

 そもそも必要な検査なのか――。

 決して違反をした日産を擁護するわけではないが、昨年秋に日産九州工場を視察した限りでは、新型セレナの生産ラインで完成検査に至るチェックは万全に見えた。

 確かに、無資格者による完成検査は、国交省の通達違反であるが、この無資格完成検査を通った車両が安全面等の品質に問題があり危険という見方は誤解である。それでも、一般ユーザーも海外からの目も「安全への信頼を揺るがせる」との見方が大勢を占めているようだ。

 むしろ国交省も、昔からの道路運送車両法による「自動車製作者の型式指定車の生産として組み立ての最終完成検査」の制度設計を見直すことも必要なのではないか。何しろ、日本国内市場向け車両だけがこの完成検査の対象であり、輸出向けは対象外だ。出荷後に輸出先のルールに基づく検査となっているのだから。

 今回の日産、スバルの国内工場の無資格完成検査問題は、これにより出荷車両が品質・安全性の欠如したものと、短絡的に決めつけるべきものではない。生産ラインの「最終完成検査そのもの」は、手順通りに行われていたのである。

 むしろ、生産現場と経営サイドのギャップが大きくなり「現場任せ」。あるいは「現場が見えない状況にあった」ことが問題だ。

 そこにガバナンスが効いていなかったし、コンプライアンスが欠けていたということだ。加えて、問題に対するリスク管理面での初期対応のまずさが日産にあったことも確かである。

地域の経済と雇用を支える国内自動車工場はどうあるべきか

 日本の国内自動車工場は、かつて英国工場や米フォード工場など欧米に学んできたが、グローバル化の中で品質・コスト・納期を徹底させるマザー工場の位置づけを持つほどになっていた。

 しかし、自動車産業全体が電動化・知能化・情報ネットワーク化に向け大転換期にある今、モノづくりの工場も変わらねばならない時期を迎えているのかもしれない。

 国内の自動車工場は、部品・資材のサプライヤーや物流業者なども含めて地域に「城下町」を形成し、その地域の経済や雇用を支える重要な存在である。

 トヨタ300万台、日産・ホンダ100万台――。

 グローバル化が進んでも、これだけは日本国内での年間生産台数を確保していこうという数字である。つまり、トヨタ、日産、ホンダは世界戦略を進めるにあたって、一定の国内生産台数は維持していく体制であり、それを日本国内市場向けだけでなく、輸出向けも含めて支えていく計画である。

 しかし、今後、さらに国内市場向けが減退すると難しくなるだろう。例えば、日産は世界販売に占める日本市場販売はわずか10%にとどまっているのが実情だ。これを打開するには国内での販売増加が求められる。

 今回の問題は開催中の東京モーターショー主催者である日本自動車工業会会長でもあった西川廣人日産社長が自粛し、豊田章男トヨタ社長が会長代行を務める事態ともなった。

 日産とスバルはカーオブザイヤーの選考を辞退するなど、少なからずブランド力低下への影響は大きい。今後、どう打開していくか。

 その一方で、ホンダは日本のモノづくり強化を目指して新技術への生産対応のため、2021年度末を目処に主力の狭山工場を閉鎖し寄居工場に集約する。

 電動化などの新技術に対応した生産技術を構築・標準化し海外の生産拠点に展開させる新たな時代のマザー工場機能を寄居工場内に新設するというものだ。

 自動車大転換期への日本車モノづくりの転換への問題提起ともいえよう。

(佃モビリティ総研代表 佃 義夫)

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