今宮、右打ちやめ取り戻した打の意識

「ん、もう終わり? 今宮くんのことはいいの?」

 工藤公康監督から報道陣へ質問を催促するという、ちょっと珍しいシーンがあったのは、11月17日の宮崎キャンプ中のことだった。

 帰り際の指揮官を“鷹番”が取り囲むのはいつもの光景。一日の振り返りと共に、この日は夕方に発表されたベストナインに甲斐拓也が初選出されたことに対するコメントをもらうのが主な目的だった。

 育成出身選手としては史上初の快挙。また甲斐はゴールデングラブ賞にも輝き、ちょうどその時期は侍ジャパンのユニフォームを着て戦っていたこともあり、メディアにとっては「字になる」うってつけの存在だったのだ。

就任当初から、東浜と今宮を評価し続けてきた。

「おめでとうございます。何事に関しても一生懸命やっていた。その頑張りを評価してもらえたのでしょう。リード面でも投手と話をしながらいい勉強をしたと思うし、リードもコミュニケーションも、もっともっと上のレベルを目指してやってもらいたいね」

 笑顔で言葉を並べる工藤監督。ただあまり引き止めるのも……という空気が番記者の間に流れたころ、冒頭のシーンとなったわけである。となれば現金なもので、ついペンを持つ手に力を込める。工藤監督はその様子にニカッと笑って言葉を継いだ。

「(今宮が受賞と)聞いた瞬間にガッツポーズをしましたよ。今年の彼は、通常の2番打者に求められるもの以上の働きを見せてくれましたから」

 今季が3年目となった工藤監督は、就任当初から「投手では東浜くん、野手では今宮くんはものすごい能力を持っている。もっと上を目指せる」と言い続けていた。今季は東浜巨が16勝で最多勝に輝いており、今宮もまた大きな勲章を手にしたことがたまらなく嬉しかったようだ。

最高の守備に比べて打撃が弱点だったが……。

 今宮がベストナインを受賞したのは3年ぶり2度目だった。常勝チームの“不動の遊撃手”として5年連続5度目のゴールデングラブ賞に輝いた名手ではあるが、ベストナインにはなかなか手が届かなかった。

 やはり弱点はバッティング。しかし、今季はひと味もふた味も違って見えた。打率.264、14本塁打、64打点、15盗塁。いずれも自己最高の成績を残した。

 現在のプロ野球は、2番打者にも攻撃力を求められる時代だ。

 今季の前半戦で躍進したイーグルスは「2番・ペゲーロ」が大いに機能したことがチームに勢いをつけた。逆にペゲーロが機能しなくなった後半戦は大失速。いかにチームの屋台骨だったかが明らかになった。

 また、日本シリーズを戦ったベイスターズにしても今季21本塁打と一発のある梶谷隆幸が2番に座ったことで、打線がより強力なものとなっていた。

捨てきれない長打への思いが口に出ることも。

 今宮は昨年の10発に続き、2年連続で二桁本塁打を達成した。また、三塁打7本はパ・リーグ2位、二塁打27本は同5位タイの成績だった。

 かつて輝きを放っていた“スラッガー”今宮が、その姿を取り戻しつつある。

 高校通算62発の実績を引っ提げてプロ入りしたが、入団してすぐの頃から「本塁打は捨てる」と公言してきた。しかし、それは本心だったのだろうか。

 身長172cmの体躯なのにプロで長距離砲を目指すなど無謀だ、という周囲の声に押し切られているようにも映った。実際、公式なインタビューなどでは「ホームランは求めない」と言いながらも、捨てきれない長打への思いを、親しい人には口に出してしまうことがあった。

川相昌弘の世界記録を超えるペースで犠打を量産。

 それでも今宮は球界屈指の“おくりびと”としての仕事を全うしてきた。現在26歳にして、すでに通算270犠打を積み上げている。レギュラーになってから6シーズンで、年平均45犠打。このペースでいけば32歳を迎えるシーズンには、あの川相昌弘の持つ533犠打の世界記録を抜くことができる。

 今シーズンも、52犠打はパ・リーグで圧倒的1位だった。「それだけバントがありながら、64打点は立派です。相手球団から怖がられる2番打者だったと思います」と工藤監督はとにかく称賛の言葉を惜しまなかった。

自分に制限を設けることをやめ、自然体で打つ。

 今宮は今年の打撃について「8年目にしてようやく『コレだ』というものが見つかった」と自信めいた発言をしている。

「今年は右に打とうとは一切考えませんでした」

 バントのサインには確実に応える。“おくりびと”にはなっても“つなぎびと”ではない。

「右打ちのサインが出たり狙い球があったりすれば、流し打ちや、逆に初めから引っ張りに行ったこともありましたけど、基本的には全部センター返しのつもりで打席に立っていました」

 自分に制限を設けることをやめた。要するに自然体。人間はどこかに意識を置けば、余計な力が入るもの。リラックスすることが弱点克服につながった。

「僕は上半身の力が強くて、そっちに頼り過ぎる打撃になりがちでした。力感なく振ること。狙いはすべてセンターへ。結局タイミングが少しずらされるから、レフトやライトにも飛んでいく。それがたまたまいい結果になる、という意識でした」

 ただし、今年の成績に満足感はない。

「率が全然ですよ。僕はずっと3割バッターを目指している。その難しさを知れるラインにすら辿り着いていませんけど」

 今季は8月4日の時点で打率.290をマーク。しばらくは粘ったものの、終盤戦で失速してしまった。

「オフの自主トレはまずバットを振ること」

「オフの自主トレはまずバットを振ること。超基本的なことですが、スイングをたくさんすることを心がけたいです。あとは映像も見直します。今まではあまりやっていない作業でしたが、自分と向き合う時間も作りたい」

 来季、今宮がさらにワンランクもツーランクも飛躍を遂げられるか。そのポイントとなるのは継続性ではなかろうか。

 '16年のシーズン開幕前には「ツイスト打法」に取り組み、一定の成果を出すも失速して断念した。その後5月の終わりには、新たに踏み込む左脚に敢えて軸を置くという「テニス打法」にも挑戦している。

「今度は変えることなく一途にやっていきたい」

 その誓いを信じて、来シーズンを待ちたい。

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