プロ野球、異色助っ人が生んだ珍記録
2017年もさまざまな出来事があったプロ野球。華々しいニュースの陰でクスッと笑えるニュースもたくさんあった。「プロ野球B級ニュース事件簿」シリーズ(日刊スポーツ出版)の著者であるライターの久保田龍雄氏に2017年シーズンの“B級ニュース”を振り返ってもらった。今回は「異色助っ人編」である。
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4月30日のロッテvs西武(メットライフドーム)は、試合時間2時間10分という近年では異例の速さ。スピードアップに大きく貢献したのは、西武の先発・ウルフだった。
立ち上がりから打たせて取るエコ投球に徹し、ツーシームで内野ゴロの山を築く。7回をわずか69球、被安打2、無四球の無失点。21個のアウトのうち、内野ゴロが併殺1も含めて14個もあった。
このままいけば、100球未満で完封も夢ではなかったが、「ウーン、ウルフ様だからね。右肩をグルグル回すジェスチャーもあったので、ピッチングコーチの判断で代えました」と辻発彦監督。
本人も「9回まで?ノー!トゥー・オールド」と冗談めかして続投を固辞した。ソフトバンク時代の2014年に右肘の手術を受け、1年以上投げられなかったことに加え、36歳という年齢からも無理はさせられないのだ。
試合はリリーフ陣が1失点で踏ん張り、2対1で逃げ切り。ウルフは4勝目を挙げた。シーズン途中加入した前年8月28日の古巣・日本ハム戦以来、無傷の8連勝である。連勝記録は5月7日の楽天戦(メットライフドーム)でストップしたものの、9勝4敗の好成績でチームの4年ぶりAクラス(2位)入りに貢献した。
助っ人史上初の同一シーズン2球団勝利を挙げたのが、7月に日本ハムからDeNAに移籍した左腕・エスコバーだ。4月2日の西武戦(札幌ドーム)で初先発初登板デビュー。5月14日のロッテ戦(東京ドーム)で先発・メンドーサの危険球退場直後に緊急リリーフして初勝利を挙げた。
だが、チームにはメンドーサ、マーティンの両右腕と主力打者のレアードに加え、腰の手術で長期離脱した近藤健介の穴埋めとして6月にキューバ出身の外野手・ドレイクも入団したことから、登録枠をはみ出してしまった。
この結果、エスコバーは7月3日に登録抹消。故障者が出るなど不慮の事態が起きない限り、このまま2軍暮らしでシーズンを終えてしまう可能性もあった。
ところが、捨てる神あれば拾う神あり。左のリリーフ陣強化を急務とするDeNAがロングリリーフもできるエスコバーに目をつけ、同6日、黒羽根利規との交換トレードで電撃移籍が決まる。
入団1年目の外国人選手がシーズン中にトレードされるのは、88年に中日から近鉄に金銭トレードされたブライアント以来、29年ぶりだった。
そして、移籍後10試合目の登板となった8月23日の広島戦(横浜)、1点を追う9回に砂田毅樹をリリーフすると、その裏、ロペスが左越えに同点弾。さらに延長10回無死一塁、梶谷隆幸のサヨナラ二塁打が飛び出し、エスコバーにセリーグ初勝利がついた。
同一シーズンに所属した2球団で勝利投手になったのは、04年の田中充(ロッテ→ヤクルト)以来13年ぶり9人目だが、外国人投手では、もちろんプロ野球史上初の珍事。
エスコバーも「梶谷があんな仕事をしてくれるなんて!ひじょうにうれしい」と大感激だった。ちなみに日本ハム時代の同僚・メンドーサも8月に阪神に移籍。9月18日の広島戦(甲子園)で、5回を2失点に抑えたが、勝ち星はつかず、助っ人史上2人目の快挙はならなかった。
DeNAの話題をもうひとつ。同チームは前身球団も含めて、球団創設から2016年までの67年間、二桁勝利を挙げた外国人投手は一人もいなかった(外国人投手の最多勝利は2014年のモスコーソの9勝)。
そんなジンクスに挑んだのが、9月25日の阪神戦(甲子園)で来日初完封勝利を飾り、勝ち星を9まで伸ばしたウィーランドだった。10月1日の広島戦(横浜)、球団史上初の快挙をかけて先発したウィーランドは、初回に2走者を出しながらも無失点で切り抜ける。
その裏、打線がロペス、筒香嘉智の連続本塁打などで一挙4点をプレゼント。しかも、4点目は自らのタイムリーという、うれしいオマケも付いた。
にもかかわらず、この日はなかなか調子が上がらない。「今日は0.1パーセント(の悪い部分)が出た」の言葉どおり、2回に2点を失うと、3回にも会沢翼に右越え3ランを浴び、逆転された。しかしその裏、自らのバットで左越えにシーズン3号となる逆転3ラン。7対5とした。
だが、勝利投手の権利を得られる5回2死から田中広輔に右越えに同点2ランを浴びてしまう。これで二桁勝利も幻と消えるかに思われた。
ところが、この日のウィーランドはとことんツイていた。その裏、筒香が右越えに勝ち越しソロを放ち、勝利投手の権利が復活。さらに2死一塁で3打席目が回ってくると、中前安打を放ち、9点目をアシスト。この日は、3打数3安打4打点の大当たりだった。
投手の本塁打を含む猛打賞は、球団では1975年4月26日の平松政次以来、42年ぶりの快挙である。そして、6回から4投手の無失点リレーで、13対7と快勝。かくして、ウィーランドは悲願の10勝目を挙げた。
5回7失点の大乱調ながら、自ら4打点を挙げるという主軸打者顔負けの打棒プラス打線とリリーフ陣の強力援護で、球団史上初の快挙を達成。「神様とチームメートに感謝」のコメントがすべてを物語っていた。
●プロフィール
久保田龍雄
1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。