稲葉J初陣、山川の打撃を内川が絶賛
© photograph by AFLO おかわり2世と呼ばれるのは、体型だけが理由ではない。群を抜くスイングスピードと、逆方向への打球。期待度は高い。
ドラマチックな幕切れは、新監督のデビュー戦としてはこれ以上ない演出だった。
タイブレークに入った延長10回。先に点を取ったのは韓国だ。侍ジャパンの7番手・又吉克樹(中日)が打たれた。1死二、三塁から韓国の6番・リュウ・ジヒョウにセンターオーバーの二塁打を浴び、続くハ・ジュソクにも右翼線にタイムリー二塁打を打たれて3失点。日本は絶体絶命のピンチに追い込まれた。
しかし、崖っぷちから一振りでチームを生き返らせたのが、稲葉篤紀監督が「この大会はあいつと心中する」と宣言していた5番の上林誠知(ソフトバンク)だった。
1死一、二塁。カウント3ボール1ストライクから141キロの高めのストレート。
「3点差ならワンチャンスでいけると思っていた。すごく嬉しかった」
バックスクリーン右に叩き込む同点3ラン。そして2死から西川龍馬(広島)が右前に落とすと、続く8番・田村龍弘(ロッテ)の4球目に二盗。すかさず次の球を田村が前進守備の左翼の頭上を遥かに越えてフェンスを直撃する二塁打にして、西川がサヨナラのホームを駆け抜けた。
「選手たちの表情を見たら、絶対にいけると思った。彼らが声を出して結束してくれたらのが、最後に勝利につながったと思う」
初陣をサヨナラ激勝で飾った稲葉篤紀監督の表情は、喜びと手ごたえ、そして安堵が入り混じっているように見えた。
序盤は韓国の先発右腕に押さえ込まれる展開。
序盤は韓国先発の右腕・チャン・ヒョンシクのパワーピッチに押される展開だった。3回に敵失で1点を先制したが、4回には先発の薮田和樹(広島)が捕まり継投に入った。しかし、2番手の近藤大亮(オリックス)も適時安打を浴びてこの回一挙に4点を奪われ逆転を許した。
日本の反撃は6回。この回先頭の3番・近藤健介(日本ハム)が左前安打で出塁すると、4番の山川穂高(西武)が右中間に代表1号となる2ランを放って1点差として、9回の押し出しによる同点劇へと結び付けた。
稲葉監督が語っていた「国内の実績よりも対応力重視」。
冷や汗の勝利にはもちろん反省もあるが、3年後に向けた収穫もある。
その1つが4番を打つ山川の可能性ではないだろうか。
「今大会は4番はずっと彼を使っていこうと思っています」
24歳以下、または入団3年以内というフレッシュな顔ぶれの中で、オーバーエイジ枠で選出された山川への期待を指揮官はこう語っていた。
大会前に雑誌『Number』で五輪に向けて稲葉監督のインタビューをさせてもらった。そのとき監督が語っていたことで一番印象に残っているのが、代表には国内の実績より対応能力の高い選手を選びたいということだった。
「万能系というか、初めてのピッチャーに対してもアジャストできる選手というのはいるんです。だから僕も3年間かけて1人でも多くの選手に代表に入ってもらって、対応力とか、そういう順応性を見てみたいなとは思っています」
4番の山川は一見プルヒッターにも見えるが……。
その1つが、動くボールにどう対応できるかだ。
3月のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)では、結局、このボールに対応し切れないまま結果を残せなかった打者がいた。ポイントはボールを呼び込んで、逆方向にどれだけ強いボールを打てるかにある。その観点からすると、この日の山川の打撃は可能性を示すものだと言えるだろう。
4回の2ランは左腕・ク・チャンモの141キロの低めのストレートを右中間の最深部まで運んだ特大の一撃だった。山川は2回に先発のチャンからこの試合のチーム初安打も放っているが、これも逆らわずに中前に弾き返したものだった。
ヘルメットを吹っ飛ばしてのフルスイング。リストワークを使ってヘッドを走らせる打撃からはプルヒッターの印象が強いが、山川のバッティングの基本は、ボールを引き付けてセンター方向に撃ち返す、逆方向にもフルスイングできることなのだ。
シーズン中も、右方向への打球でこそ真価を発揮。
それが如実に出ているのがシーズン中の打球方向だ。
今季はシーズン途中から4番に座り、78試合に出場し打率2割9分8厘で23本塁打を放っているが、左方向への本塁打14本に対してセンターから右方向の本塁打が9本もある。打率に関しては左方向には2割7分2厘に対して中堅方向は3割2分9厘、右方向だと3割9分1厘と、むしろ逆方向の打球で真価を見せているのである。
「基本的にはバックスクリーン狙い。真っ直ぐに合わせて、狙い通りに直球がスーッとくればパチンと振ればいい。ただ、変化球で間合いが崩されたときに、逆にフルスイングする。変化球だと思った瞬間にガバーッと振るんです」
本人がこう語るように、フルスイングの中にアジャストへのカギがある。だから逆方向への打球が凄まじく飛ぶ。宮崎合宿で行った日本ハムとの練習試合では、清武SOKKENスタジアムの右中間にあるスコアボードの上部を直撃する飛距離140メートルの特大弾も放っている。
山川の逆方向への飛距離はホンモノだということだ。
内川聖一が「かなり高度なホームラン」と絶賛。
「野球人生の中でも思い出になる1本。正直、入ると思わなかったので、入ってくれてホッとしています」
試合後に本塁打を振り返った山川は、日の丸を背負って4番を打つ重みをこう語る。
「プレッシャーは目茶苦茶ありました。本当に緊張したし、その重圧と戦いながら自分と戦いながらやることで日の丸を背負った意味がある」
この日、テレビ中継のゲスト解説を務めていたソフトバンク・内川聖一外野手も「バッターとしてかなり高度なホームランで期待したい」とエールを送っていた。内川といえば今春をふくめてWBCに3大会連続出場して、'13年の第3回大会では打率3割2分2厘で日本代表の首位打者となった国際試合のスペシャリストでもある。その内川がお墨付きを与えた打撃技術が、山川にはあるということだ。
右の大砲という代表のど真ん中を埋める大きなピースになることができるかどうか。
山川がまず、その1歩を踏み出した。