未成熟さが出たDeNAの「軽いプレー」

あわやスイープかと思われる3連敗から、2勝を返して日本シリーズを緊迫したものにしたDeNA。その粗削りさは、確実に魅力の1つでもある。 © photograph by Naoya Sanuki あわやスイープかと思われる3連敗から、2勝を返して日本シリーズを緊迫したものにしたDeNA。その粗削りさは、確実に魅力の1つでもある。

 タイミングはアウトだった。

 延長11回2死一、二塁。ソフトバンクの7番・川島慶三の放った打球がライナーで右前に落ちる。前進守備の右翼手・梶谷隆幸が捕球し、真っ直ぐホームで待つ嶺井博希に向かってボールが放たれた。

「タイミング的には余裕でアウトだったので、ホームプレートの後ろでタッチに行く準備をしていた」

 だが、腰を落として捕球態勢に入った嶺井の目の前で、ボールがアンツーカーで不規則に大きく弾んだ。必死にミットを差し出したが、その上を飛び越え、ボールがバックネットに転がる間に、二塁走者の中村晃がサヨナラのホームに滑り込んだ。

 ソフトバンクの2年ぶりの日本一奪回は、そんなあっけない幕切れだった。

同点ホームランの内川には「余裕があった」。

 最後は底力の差の勝利だった。

 1点を追う9回1死。負ければ第7戦の最終決戦になだれ込む。そんな土壇場で飛び出した主砲・内川聖一の同点本塁打が象徴だ。

「気持ち的には余裕があった。何とかしたいというみんなの気持ちが僕に乗り移った」

 DeNAの守護神・山崎康晃の決め球・シンカーを叩いた打球が左翼席に飛び込んだ。

 この追い込まれた絶体絶命の場面で、それでも起死回生弾を放てる強い精神力。それを裏打ちした、失投を見逃さずに打ち返す集中力と技術。ソフトバンクの強さとは、こういう優れた力と精神的な強さを持った集団だということだ。

大人の集団・ソフトバンクに対して……。

 故障明けながら1番として圧倒的な存在感を示した柳田悠岐に始まり、第2戦の神走塁に再三のファインプレーを見せた今宮健太、決して調子がいいとは言えなかったが再三の好守備と第6戦の先制本塁打でチームのムードを盛り上げた松田宣浩。そして最後は3イニングを投げ抜きMVPに輝いた絶対守護神のデニス・サファテら能力の高い選手たちが勝つという目標のために1つになれる。

 そういう大人の集団がソフトバンクであり、チームとしての成熟度が日本一の称号にふさわしいことを示した戦いだった。

 敗れたDeNAも、決して悪いチームではなかった。主砲の筒香嘉智を軸に宮崎敏郎、倉本寿彦に、日本シリーズでは苦しんだ桑原将志、またあの強力ソフトバンク打線と互角以上に渡り合った今永昇太や濱口遥大ら若い才能がひしめく。それをまとめて引っ張ってきたアレックス・ラミレス監督の統率力もここまで来られた原動力だった。

1つのプレー、1点に対する集中力の差が出た。

 個々の選手が持つ潜在能力の高さはシリーズで実証された。ただ、その一方でこの敗北が示すものも確かにあったはずだ。

 1つのプレー、1点に対する集中力をいかに持続できるか。結局、勝負とはその積み重ねだということをDeNAナインは思い知らされたシリーズだったはずである。 

 勝負を決めた第6戦。象徴的な場面は2点をリードした8回2死三塁から、3番手・砂田毅樹のワンプレーにあった。柳田の一塁寄りに転がったゴロ。この当たりに三塁走者の代走・城所龍磨が飛び出し、三本間で一瞬止まってしまった。

「代走のランナーで一塁側のゴロだったのでギャンブルスタートを切っていると思った。一塁に投げようとしたときに、(三本間で)ランナーが止まっているのが見えたけど、(一塁に)投げるのを止められなかった」

「僕の判断ミスです」と砂田はうなだれた。

 ボールを捕った砂田は一瞬、目で走者を抑えたが、ラン・ダウンプレーに持ち込んで三塁走者を殺すのではなく、一塁に送球して打者走者をアウトにする選択をした。その間にあっさり1点を奪われた。

 結果的にはこの2点目が土壇場での山崎の同点被弾へと繋がっていくのである。

 内野は極端な前進守備はとらずにアウト優先の守備隊形。しかし、ボールをとった時点で判断すれば、確実に1点は阻止できた。

「僕の判断ミスです」

 こう砂田はうなだれたが、結局はきちっと状況を把握して、自分のところに飛んできたときにどうするか、という準備を怠っていた結果だった。もし、1点差ならば確実に三塁走者の生還を阻止しにいく。2点差ということで、簡単に打球を処理してしまった。

 1点に対する執着心のないプレーが、結果的には命取りとなったわけである。

記録に残らずとも“軽いプレー”は響く。

 このシリーズではこうした“軽いプレー”がDeNAには目立ったのも事実だった。

 この試合のサヨナラの伏線は1死一、二塁からの宮崎のプレーにあった。三塁線のゴロを捕った宮崎がそのまま三塁ベースに触れて二塁走者を封殺。それから一塁に送球して併殺を狙ったが、その送球が少しだけ逸れて打者走者を生かしてしまった。

 記録に表れないミスだった。遡れば第2戦では1点差の7回1死一塁から、今宮の二ゴロでベースカバーに入った倉本が送球をファンブル。併殺を取れなかったことが逆転劇のきっかけだった。

 第3戦では初回のラン・アンド・ヒットのサインミスや状況判断を誤った梶谷の走塁ミスなど、4つの敗北の裏には記録に残らないものも含めてミスがあった。

未成熟だからこそ、まだまだ成長できる。

「こういうビッグゲームでは、事前にいかに準備をしっかりするか。そこが大切だ」

 奇しくもこの第6戦の試合前に指揮官が語っていた言葉だ。次のプレーへの備えと準備がしっかりとできていたソフトバンクの選手に比べると……やはりそこが勝者と敗者を分けた分岐点だった。

「選手たちには素晴らしい1年だったと伝えた。こういう形で負けはしたが、これは負けではない。得るものがあった1年だった」

 試合後のラミレス監督がこう振り返った通り、この若いチームはシリーズという舞台で、これまでに得たことのない様々な経験をしたはずである。

 今季のDeNAは才能に溢れた若く魅力的なチームだったが、まだ未成熟なチームでもあった。

 逆の言い方をすれば未成熟ということは、まだまだこの先、横浜DeNAベイスターズはチームとしてもっと成長できるという証でもある。

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